東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)1837号 決定
申請人 小久保喜一郎 外十二名
被申請人 東京証券印刷株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人が昭和二十五年四月二十日申請人Dに対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。
被申請人は申請人Dに対し、金十七万五千二百円六十三銭を支払え。
申請人等のその余の申請はこれを却下する。
三、理 由
第一、申請の趣旨
被申請人が昭和二十五年四月二十日申請人等に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。被申請人は別紙記載の申請人等に対して同目録記載の各金員を支払え。
第二、争点及び当裁判所の判断の要旨
(一) 協約違反の有無について
本件第一の争点は被申請人が昭和二十五年四月二十日申請人等に対してなした解雇の意思表示は、被申請人と申請人等所属の全日本印刷出版労働組合東京証券支部との間に締結された労働協約第五条「会社は従業員の雇傭解雇……に就いては組合の承認を得なければ行わない」との規定に違反するか否かの点にある。
そこでまずこの点について考えてみるに被申請人は本件人員整理において全従業員五百四十一名中申請人等を含む百八十四名を解雇したのであるが、被申請人は右解雇に先だち昭和二十五年三月二十三日以降組合との間に十数回の協議を重ね、その結果組合は同年四月十七日の組合大会において百八十四名の整理員数の枠及び被申請人の提示した後記一般的整理基準を承認し、同月二十日協定書を作成したものであり、基準該当者の決定につき被申請人にこれを一任する旨の明示の意思表示をしたことはなかつたとはいえ、右協議は主として整理員数の枠と退職金に重点をおいてなされたもので、整理基準該当者の決定については組合は殆んど無関心であり、むしろ被申請人にこれを一任することを前提として協議が終結したものと一応認められる。すなわち組合としては組合員個々人の基準該当決定について問題を生ずる場合に後日不当解雇として争うことを留保したか否かは別として少くとも右該当者の指名自体については被申請人に一任する旨の暗黙の意思表示があつたものと推測することができる。従つて本件解雇が右協約に違反する旨の申請人等の主張はこれを採用することができない。
(二) 不当労働行為の成否について
第二の争点は申請人等に対する本件解雇は労働組合法第七条第一号に違反するか否かの点にある。
この点については申請人等がいずれも組合幹部として組合活動に熱心であつたことは一応疎明せられるところであるが、不当労働行為の成否を判定するについては、なお整理基準該当事実の有無の判断を俟つて、これとの比較衡量をなすことを要する。よつて次にその判断に入るが、これに先だちまず本件人員整理に至るまでの経緯を一応概観することにする。
被申請人は昭和二十五年三月受注生産高に対する人件費の過大支出を抑止して企業を再建すべく当時の従業員五百四十一名中百九十名の整理を計画したのであるが、右は機構簡素化の必要上他課への配置転換をしないこと、予備人員を置かないこと、なるべく勤務年数の短い者を整理すること等の方針の下に、活版、平版、証券、工務、事務の諸課内における各部門毎に企業再建に必要な定員を算出し定員外員数を整理員数と定めたものであるところ、組合と協議の結果結局整理人員の枠を百八十四名と決定するに至つたものであり、被整理者の銓衡については被申請人は(1)紙幣印刷打切りにより冗員になつた者、(2)技能低位の者、職務に不熱心な者、(3)勤務年数の短い者、(4)出勤常ならざる者、(5)身体虚弱のため職務に堪えられない者、(6)長期欠勤者、(7)同一世帯の親子、兄弟、夫婦にして勤めている一方の者、(8)但し以上の該当者にても会社において再建のために特に必要と認めた者は除く、との整理基準を設けて組合の承認を得たが、前段説示のような事情からその適用実施は専ら被申請人がこれに当つたものである。
以上の前提の下に次に、被申請人の右基準項目適用上の一般的取扱、及び進んで申請人等個々人に対する右基準適用の当否について考察する。
(一) 基準適用上の一般的取扱とその当否
(イ) 右の基準項目中(1)、(3)、(7)の項目は性質上他の項目と等価値に論ずることを得ないにかかわらず、被申請人は右基準項目はすべて平等の価値をもつて扱つたという。
しかし、実際上の取扱においては(1)、(3)の基準項目がそれだけで独立して適用されたということはなく、又(7)の基準項目がそれだけの該当によつて解雇者とされた事例は一、二件に止まり、その適用外となつた者が相当残留しているのであるからこれらの基準項目は他の項目と相俟つて適用されたものと認められる。従つてこの点に関する被申請人の実際上の取扱においては不公正はない。
(ロ) (2)、(4)、(5)、(6)の基準項目については、その間に優劣を定めなかつたことが一応認められるが、これらは従業員としての技能、成績、能力等に関することであつて、各基準項目それ自体独立して社員考課をはかるに適するものであり、従つてそのいずれかの一つに該当しても、(8)の除外適用を受けない限り一応整理該当の評価を受け得る性質のものであるから、この点に関する右の取扱もそれ自体不公正ということはできない。
(ハ) (3)の「勤務年数の短い者」については、その限界を平版整版部門、平版印刷部門、凸版印刷部門においては勤務年数二年未満、凸版整版部門、証券整版部門、事務部門、工務部門においては同三年未満、証券凹版印刷部門においては同四年未満としたことが認められるが、これは各部門別における従業員の平均勤務年数からみて妥当であり、ただこれに該当する残留者との関係で不利益待遇の存否が問題となるだけである。
(ニ) (4)の一出勤常ならざる者」の適用については、昭和二十四年四月から昭和二十五年三月迄の出勤状態を調査し届出による病気欠勤を除く事故欠勤、とりわけ無断欠勤に重きを置き欠勤は十二日以上遅刻早退は十回以上を標準としたことが認められる。一体「出勤常ならざる者」の標準をどこに置くかについては、全社的に従業員の一般出勤状態を観察して相対的に決定する外ないのであるが、従業員の技能、勤務態度等について数個の基準項目が設定せられた以上、これらの項目と平等に取扱うためには、客観的にみてそれらの基準項目と同等の評価をするに足るだけのものでなければならない。ところで、本件の場合、病気その他の正当事由による欠勤はこれを除外し、無断欠勤や遅刻に重きを置いたこと、被申請会社の残留従業員、ことに勤務年数の少い従業員においては一般に無届欠勤者は少く又遅刻回数も少いことに徴すれば、「出勤常ならざる者」の標準を事故欠勤十二日以上遅刻回数を十回以上と定めたことは不合理であるとは認められない。申請人等は、無断欠勤は給料の計算上病気欠勤と何ら異らず一般に無関心であつたばかりでなく会社再建の目的からいつても実質的にこれを区別すべき理由はないと主張する。しかし無断欠勤が無断欠勤とし重視せられる所以のものは労働契約上の義務履行の誠実性に係る。しかも被申請会社においては無断欠勤の場合でも事後において事故又は病気による旨を届出ることが許されており又一ケ月毎に従業員に出勤表を点検確認させる方法もとられていたことから考えれば無断欠勤をそのまま放置していたために、その欠勤がすべて理由のないものとして取扱われ従つて義務履行上の誠意について非協力と判定されることは決して理由のないことではない。
(ホ) (6)の「長期欠勤者」とは一月以上欠勤し整理当時も連続欠勤していた者で、整理以前に長く欠勤した者は含まないこととして具体的適用にあたつたことが認められる。この適用上の準則は整理前の長欠者との均衡上不当であるとの見方もできないわけではないが、基準項目(5)の「身体虚弱のため職務に堪えられない者」との関係や整理当時における他の健康者との関係からみてそれ自体適用上不公正な扱いであるとは認められない。
(二) 申請人等個々人に対する基準項目適用の当否
(1) 申請人A(平版印刷手差部門、機械担当者)(整理基準(3)、(4)及び(2)の職務不熱心、(7)適用)
(イ) 同人の勤務年数は一年八月であり、その所属する平版印刷課における残留者の勤務年数をみると、整理当時三年以上の者三十九名、二年を超え三年未満の者八名、二年未満の者八名(内見習工七名)であつて申請人は同課内においてはもちろん、手差部門においても勤務年数の短い方に属する。((3)該当)
(ロ) 同人の出勤状態は前記の一年間において欠勤二十日(内無届欠勤十六日)遅刻十一回(内早退一回)であつて、無届欠勤及び遅刻回数の多いことは同課内においてはもちろん手差部門においても顕著である。しかも右無届欠勤、遅刻を正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ)(i) 職場離脱
申請人Aが組合役員でないときにも就業時間中「細胞」との連絡のため職場を離脱することが多かつたとの被申請人の主張事実については同申請人がその行先、目的を明かにすることなく職場を離れることがしばしばあつたことが疎明されるが、又他面被申請人は就業時間中の従業員の組合活動については組合の勢力に押されて極めてゆるやかな態度を示し、例えばいわゆる組合三役、中央執行委員の就業時間中の組合活動については、組合の仕事がないときはできうる限り本来の職場で就業することを要望した程度で事実上常任として取扱うことを黙認し、職場闘争委員の就業時間中の組合活動も厳格に規律することなくただ組合の勢力に押されて黙認していたものと推測することができる。従つて、他に反対の疎明がない限り、入社以来大部分を職場闘争委員として活動してきた同申請人の職場離脱の多くは組合活動のためであつたと推認することができる。しかし会社の黙認があつたとはいえ職場闘争委員の組合活動にはおのずから限度があるものというべく、同申請人が職場を離れるため他の従業員から被申請会社職制の幹部に対し、作業が過重となる故同申請人を作業定員から除外されたい旨の申出があつた事実等に徴すれば同申請人の職場離脱は他の作業員からみてすべて組合活動のためばかりであるとは認められなかつたことを疎明するに足る。
(ii) 脅迫の事実
被申請人は、申請人Aが申請人Bの職場離脱の問題に関連して、元共産党員であつた従業員aを脅迫したと主張するが右は申請人Aが同じ党員であつた立場から語気を強めてaに警告したとみるのが相当であり、脅迫と断定するにはその疎明に乏しい。しかもこの事実は解雇通告後被申請人において知り得た事実であつて申請人Aの性格を推断する一資料となり得てもこれを解雇の直接の原因とすることはできない。その外被申請人は申請人Aが職場常会を故意に長びかせたと主張するが、就業時間中の職場常会は被申請人の黙認していたところであり、申請人Aが故意にこれを長びかせたと認めるに足る疎明はない。(以上(2)の一部該当、大部分非該当)
(ニ) 申請人Aの妻は被申請会社に十年間勤務し現に残留していることが認められる。(これは一応基準項目(7)該当とされたわけであるが凸版製版に四組の該当者が残留していることからみて、申請人Aの場合だけ独立して本項目のみで整理該当にされるだけの事情を疎明するに足りないのであつて、先に説示したように他の基準項目と相俟つて考慮さるべきものと考える。)
(2) 申請人B(平版印刷手差部門、紙差工)(整理基準(3)、(4)、(2)適用)
(イ) 同人の勤務年数は一年六月であり、所属課及び所属部門における残留者との関係は申請人Aについて説示したところと同様である。((3)該当)
(ロ) 同人の前記一年間における無届欠勤は十二日遅刻は三十回であり、その遅刻回数は同課内はもとより、同部門においても最も多い。しかもこれらの無届欠勤遅刻等を正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ) 同人は昭和二十四年三月から翌二十五年二月頃まで中央執行委員をしていたし、中央執行委員の就業時間中の組合活動については、申請人Aの項で説示したとおりであるから、他に疎明がない限り、その職場離脱は中央執行委員の業務遂行のためであると推認することができる。(但しこのことは職場離脱についてだけのことであり、中央執行委員でも出勤義務及び組合業務をしないときは随時作業に就くべき義務を免除されていたわけでないから、同人の無届欠勤及び遅刻が作業に支障を来したことを否定することにはならない。)その他同人が職場常会を故意に長びかせたという点はその疎明に乏しい。((2)非該当)
(3) 申請人M(平版印刷、手差部門、見習工)(整理基準(3)、(6)、(5)、(4)適用)
(イ) 同人の勤務年数は一年五月であり、同課内、同一部門における残留者との関係は申請人Aの項で説示したとおりである。((3)該当)
(ロ) 同人は昭和二十年三月十六日から、右第一趾蹠関節結核のため、解雇当時まで欠勤していたものである。((6)該当)
(ハ) 同人の病状はいまだ正常に復していないと一応認められるのであつて、直ちに通常の業務に就業できるとの疎明はない。((5)該当)
(ニ) 同人が前記一年間において、二十六日の欠勤のあつたことは疎明せられるが病気欠勤であつたことが疎明されるので、これを目して基準項目(4)に該当するとなすことは相当でない。((4)非該当)
(4) 申請人C(凸版整版、植字部門、植字工)(整理基準(3)、(4)及び(2)の職務不熱心適用)
(イ) 同人の勤務年数は二年五月であり、凸版整版課植字部門における残留者の勤務年数をみると、五年以上の者十二名、三年以上五年未満の者四名、三年未満の者三名であつて勤務年数の短い方に属する。((3)該当)
(ロ) 同人の前記一年間における欠勤日数は二十九日(内無断欠勤二十一日、他は事故欠勤)遅刻は二十七回であつて、無断欠勤及び遅刻の回数は同部門において最も多い。又右無断欠勤及び遅刻を正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ) 同人が組合青年部幹事として在任中、職場を離れることが多かつたことはこれを認めうるが、被申請人の就業時間中の組合活動に対する前記態度から見て、その職場離脱は青年部幹事としての組合活動であつたと推認することができる。しかし、その任に就かない期間における同人の作業能率の標準が低かつたことはこれを疎明するに足る。なお、同人の昭和二十五年三月十四日の職場常会席上での発言の内容(被申請人は申請人Cが「私は共産党員で党活動のため夜遅くまで活動しているから作業は低下しても止むを得ない。」と発言したと主張する)や、同人が職場常会を意識的に長びかせたとの点はいずれもその疎明に乏しい。((2)の大部分非該当、一部該当)
(5) 申請人D(凸版整版植字部門、差換工)(整理基準(2)適用)
同人については、(2)の整理基準のうち技能低位の点は問題とせられず職務不熱心が適用されたことが疎明せられる。而して同人の職場離脱とその目的について被申請人の提出する疎明方法は抽象的で具体的事実ないしこれを推測するに足る事実を認めるに足りない。又被申請人主張の就業時間中同人が俳句を作つていたという事実は解雇通告時から二年程前のことであり、しかも右は同人が自ら作句していたのではなく組合文化部の仕事として俳句の編纂をしていたものと思われるし、(当時被申請会社ではこの程度の組合文化活動を認めていたと疎明せられる。)目撃者の認知したという回数も二、三回であつて、右認定の程度においては右行動をもつて本項目にいわゆる職務不熱心ということはできない。次に被申請人の挙げる申請人Dの職場常会における発言が破壞的であつたとか、課員一同信頼するものがなかつたとか社内で細胞会議を開いたかという事実はいずれもその疎明が足りない。
申請人Dは勤務年数十一年であり、今次整理の基本方針として勤務年数の少い者が整理対照とされたのに、同人が整理該当者とされたのは一に職務不熱心の評価を受けたことによるものであり、しかもその主眼は就業時間中の職場離脱であると認められるところ、同申請人は教育部長、宣伝部長等の組合役員に就任していたため、就業時間中職場を離れることが多かつたもので、当時の組合活動に対する被申請会社の前記態度からみて、右申請人の職場離脱は組合活動のためであつたと一応推認されるから、同人が整理基準(2)に該当すると断定するにはその疎明不十分といわなければならない。
(6) 申請人E(凸版整版鉛版係、鉛版工)(整理基準(5)、(4)、(2)適用)
(イ) 同人は肺浸潤でいまだ十分に回復しているものとは認められないから身体虚弱で職務に堪えないとの点はその疎明があるといえる。同申請人の反対疎明は右認定を動かすに足りない。((5)該当)
(ロ) 同人の欠勤日数は、前記一年間において七十五日であるがその大部分は病気欠勤である。そのうち無届欠勤は五日であるが、昭和二十四年九月一日から四日までの四回は病気欠勤の継続であつたと一応認められる。なお遅刻二回早退九回あるがこれらも同人の病弱のためと推認するのを相当とする。従つてこれらの欠勤、遅刻、早退は本項の問題として取扱うべきではなく(5)該当の認定資料として取扱うべきものである。((4)非該当)
(ハ) 被申請人の主張する同申請人が技能低位であつたとの点については、同人が病弱で飽き易い性質であつたという事実は疎明されるが、残留者に比して技能そのものが低位であるとするには疎明が足りない。又同人が細胞会議出席のため無断離席するとの点や、仕事を覚えようとしないとの点もまた疎明に乏しい。しかし同人には社外の面会人が他の従業員に比して頗る多くそのためしばしば職場を空席にし、流れ作業の仕事の進行に支障があつたことを認めることができる。この場合許可を得て離席したものである限り同人だけに面会人の多いことを責めることはできないが、一面従業員としての労働契約上の誠実義務の観点に立てば、本人としては度重なることであるから、業務に支障を来さないよう自発的に何らかの適宣の措置をとり得たはずであるに拘らず、その挙に出なかつたことはいささか不誠意であるとの非難を避け難い。しかもその面会については、右義務を免れるについて正当な事由の存在したことを認めるに足る疎明はない。((2)の業務不熱心の一部該当)
(7) 申請人F(凸版整版細字部門、文選工)(整理基準(3)、(4)、(2)適用)
(イ) 同人は勤務年数二年五月であり、凸版整版課採字部門における残留者の勤務年数をみるに五年以上の者六名、三年を越え五年未満の者二名、二年五月未満の者三名である。従つて同人は同部門全体からみると勤務年数の短い方に属する。((3)該当)
(ロ) 同人の前記一年間の事故欠勤は十九日(内無届二回)遅刻九回早退三回であつて、その遅刻、早退の回数は、残留者が一回ないし四回であるのに比して最も多い。ことに同人より勤務年数の短い者の内二名は全然遅刻、早退はなく、内一名は一回である。しかもこれを正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ) 同人の技術がその勤務年数の割に上達しないことはその疎明ありといいうる。職場離脱の点は同人が青年部幹事をしていた当時は、反対疎明のない限り被申請人の組合活動に対する前記態度からみて、組合活動のためであつたと推認できるが右幹事をしていない時において就業時間中私用雑談が多かつたことが疎明せられる。((2)の技能低位該当、職務不熱心一部該当)
(8) 申請人G(凹版印刷課、印刷工)(整理基準(3)、(4)、(2)適用)
(イ) 同人は勤務年数三年十一月であり、凹版印刷課印刷部門における残留者の勤務年数をみると四年以上の者三名、三年六月以上四年未満の者三名である。従つて同人は勤務年数の短い方に属する。((3)該当)
(ロ) 同人の前記一年間における出勤状態は事故欠勤二十八日、内無届欠勤十六回である。(但しその内数回は届出手続をしたのに訂正されなかつたものと思われる。)又遅刻回数は九回、早退二回であつて、残留印刷工の遅刻、早退回数が皆無または一、二回であるのに比してはるかに多いものといえる。しかもこれらを正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ) 同人の技能低位の点はこれを認めるに足る疎明がない。職務不熱心の点については同人は昭和二十四年三月から同年九月まで組合青年部長を勤めていたもので、被申請人の組合活動に対する前記態度(ことに同申請人についていえば青年部長は事実上組合中央執行委員なみの取扱を受けていたこと)からみて、青年部長在任中の同人の職場離脱は被申請人側において他に疎明をしない限り、組合活動のためであつたと一応認めうる。組合青年部長でない期間の同人の職場離脱については、被申請人の疎明方法ではこれを認めるに足りない。その他同人が職場常会を意識的に長びかせたとの点は疎明がない。((2)非該当)
(9) 申請人H(凹版印刷課、印刷工)(整理基準(3)、(4)、(2)適用)
(イ) 同人の勤務年数は二年三月であり、凹版印刷課における残留者の勤務年数は、申請人Gの項で説示した通りであつて、いずれも申請人Hより長い。((3)該当)
(ロ) 同人の前記一年間における欠勤日数は二十七日、内無届欠勤は十三回である。(もつともその内昭和二十四年七月二十二日、二十三日の無届欠勤は病気欠勤として届出たのが手続上誤られたものと一応認められる。)なお遅刻、早退の回数は十三回であつて残留者に比して多いことは申請人Gの項で認めたとおりである。しかも右欠勤及び遅刻等を正当ずけるに足る疎明に乏しい。((4)該当)
(ハ) 被申請人主張の同申請人が職場常会を故意に長びかせる行動に出たとの点は疎明不十分である。又職場離脱の点は、同人が青年部長、同副部長就任中は他に疎明のない限り、申請人Gの場合と同様、組合活動のためであつたと一応認めることができる。組合役員でなかつた期間の職場離脱や能率低位等については、被申請人の提出した疎明資料ではこれを認めるに足りない。((2)非該当)
(10) 申請人I、J、L、K(検査課)(共通整理基準(1)、(3)及び(2)のうち技能低位適用、なお右の外、Lについては(4)、(5)Jについては(5)各適用)
(イ) 共通整理基準
紙幣印刷打切りによつて検査課と証券課の女子従業員約八十名が不要となり検査課に残留する女子定員十七名を除くその他の者は解雇する必要があつたものと一応認められる。従つて検査課において解雇せらるべき者はすべて(1)の基準に該当することになるのであるが、被申請人は残留者の決定については将来の経営方針を高級印刷製造に切換える必要上検査、仕上、番号の読合せ記帳等を勘案し技術の良い者を選択したと主張するのでこの点について判断する。
右申請人等四名は勤務年数三年十一月ないし四年一月であるが残留者のうちでもこの期間に属するものが八名ある。(他の九名はそれ以上の者である。)それ故検査課においては(3)の「勤務年数の短い者」に該当するといつてもそれだけで独立して解雇該当者に決定されたものでないことはもとよりである。そこで他の項目の該当の有無について考えてみるに、まず右申請人等四名はいずれも(2)の技能低位該当とされているが、右申請人等が技能低位に該当するとされるためには少くとも同一勤務年数の残留者と比較して技能低位であると判定されることを必要とする。しかるにこの点について被申請人の疎明方法はその優劣を裏付けるに足る具体的例証に乏しい。元来検査課の従来の仕事は二、三年の経験によつて大体優劣の差がつけにくくなるものと認められるのであるが、さればといつて、全然優劣の差がないともいえない。従つてこのような仕事における技術の優劣の判定には、事の性質上常時指導監督の立場にある判定者の評価が重要な作用を及ぼすものというべく、従つて判定者の評価がことさらに不公正であると認められる事情のない限り、その判定は一応相当であるといわねばならない。右申請人等はこの点についてあえて残留者の技能が自己より低いことを争うことなく、ただ優劣はないと主張するだけであるから、右申請人等の技能についての元検査課長の判定は一応相当と認めることができる。(共通整理基準(1)、(3)及び(2)の技能低位全部該当)
(ロ) 個人的整理基準
(i) 申請人L(整理基準(4)、(5)適用)
同人が身体虚弱であることの一応の疎明はあるが、解雇当時職務に堪えられない程の健康状態であることを認めるに足る資料はない。従つて同人が整理基準(5)に該当するとはいえない。同人の前記一年間の出勤状態は欠勤四日、遅刻三回であり、残留女子従業員は無欠勤者が多いけれども、これを捉えて整理基準(4)の「出勤常ならざる者」ということは既に述べた通り適当でない。((4)、(5)非該当)
(ii) 申請人J(整理基準(4)適用)
同人の前記一年間における欠勤日数は十九日内無届欠勤十一日遅刻九回と認められる。しかも右無届欠勤、遅刻を正当ずけるに足る疎明はない。((4)該当)
(三) 申請人等各人についての不当労働行為の成否
(1) 申請人A、B、M、C、E、F、G、Hについて、
以上の事実を綜合すると、被申請人が申請人A、B、M、C、E、F、G、H等に対し整理基準を適用するに当り、同人等の就業時間中の組合活動に対する一方的評価が職務不熱心を判定する上に重要な影響を与えたものということができ、その限りにおいては同人等の正当な組合活動に対する不公正な取扱いがあつたということができるが、本件解雇を全体としてみるときは、なるべく「勤務年数の短い者」を整理することを基本方針としその点につき組合の承認を得た今次整理において右申請人等が(4)の「出勤常ならざる者」(申請人A、B、C、F、G、H)、(6)の「長期欠勤者」(申請人M)、(5)の「身体虚弱のため職務に堪えられない者」(申請人M、E)、(2)の「技能低位の者」(申請人F)に該当し、なお申請人A、C、E、Fについては併えて前記組合活動に関係のない(2)の「職務不熱心」の事実が認められる限り、勤務年数の長い者に比してはもちろん、同じ勤務年数でもかかる項目非該当の残留者に比して右申請人等が不利益に取扱われることは一応やむを得ないものといわなければならない。(本件においては申請人等も残留者に(2)、(4)、(5)、(6)等の基準該当者があるということで争つてはいない。)換言すれば申請人等が組合活動をしなかつたとしても右の整理基準に該当することはそれだけで残留者と差別した取扱を受けるに値すると認められるからである。
なお、申請人等は右A、B等の属する平版印刷課において新定員発表後三名の退社希望者が出たため同人等が強いて定員過剰者として取扱われる理由なく又手差機械一台の売却によつて機械付きの定員を削減する必要もなく右は組合の関知しないものであると主張する。しかし、これは次のような事実関係であつたと認められる。すなわち被申請人は退職金増額の団体交渉中に平版印刷手差機械一台を売却して退職金の融資にあてること、従つてこれに伴い平版印刷手差部門の機械一台の定員三名を減少すべきことを申入れたが、たまたま、自己退社希望者三名を生じたので被申請人と右組合との間に手差機械一台を売却すること及び退社希望者三名は自然定員減少と認める旨の了解が成立したことが疎明せられる。従つて申請人等の右主張は理由がない。
以上の次第で右申請人等八名については不当労働行為の成立を認めることはできない。
(2) 申請人I、J、L、Kについて、
同人等はいずれも前記認定のように、(1)の「紙幣印刷打切りにより冗員になつた者」であり、且つ(2)の「技能低位の者」に該当するものと認められるから(申請人Jはさらに(4)の「出勤常ならざる者」に該当)技能低位等の項目に該当しないと認められる残留者と較べて不利益な取扱を受けたことは一応相当というべく、しかも被申請人が同申請人等の組合活動をとくに注視していたものとも認められないから同人等についても不当労働行為の成立を認めることはできない。
(3) 申請人Dについて、
右に反して申請人Dの場合は前記認定のように整理基準(2)のうち「職務不熱心」に該当するとされたこと自体が、組合活動に対する被申請人の一方的評価、すなわち一応正当と認められる同申請人の組合活動に対する不当評価によるものということができるから、他に何らの基準該当事実の認められない同人については、不当労働行為の成立を疎明するに十分である。
なお同人が被申請人の供託した退職金を受領したことは認められるが、この事実だけでもつて同人が不当労働行為の存否に関して争を止め雇傭関係の終了を承諾したと認めることはできない。
(四)、右の次第であつて、申請人Dについてはその解雇は無効というの外ないところ、被申請人はその賃金を支払わないおそれがあるものと認められるから、解雇の意思表示の効力を停止すると共に併せて同人の請求金員十八万九千八百九十三円九十六銭のうち疎明ありと認められる一ケ月平均賃金一万五千九百二十七円三十三銭の割合による昭和二十五年六月分より昭和二十六年四月分までの賃金十七万五千二百円六十三銭(その他の部分については疎明不十分)の支払を命ずべく、申請人等その他の申請はいずれも理由のないことが明かであるから失当として却下すべく、主文の通り決定する。
(裁判官 古山宏 中島一郎 緒方節郎)
(別紙目録省略)